以前来られていた患者さんがまた別件で来られました。
この方、中学生のころ、めまいの相談で親御に付き添われて来られ、漢方治療で良くなった方なのです。
今回は、成人になってお一人でご相談に来られました。
ご相談内容は過敏症腸症候群でした。
詳しく症状をお伺いすると、この症状は社会人になってから顕著になったそうです。
そして
平日が便秘で土日が下痢、
冬が便秘で夏が下痢、
という傾向があるそうです。
また、ガスも溜まりやすく、通勤途中にお腹が痛くなってしまうそうです。
特にトイレがない場所に行くと同様のことが起きやすいそうです。
この話からどう考えてもストレスが原因だと思いました。
そのため、ストレスを緩和し自律神経を整える漢方薬をとりあえず2週間服用していただくことにしました。
そして2週間後来られた際に様子をお伺いすると、服用を始めて便秘は解消されたが、1週間を過ぎた頃から少しお腹が痛むようになったそうです。
そのため、再度、漢方薬を修正してまた2週間後に来ていただくことにしました。
そして2週間後に来られた際に様子をお伺いすると、特に腹痛もないそうですが、何故か下っているそうです。
そこで、また漢方薬を変更し、再度2週間後に来ていただきました。
そうすると今回はあまりくだらなかったそうですが、出ないのにお腹が痛い日が結構あったそうです。
そこで、また漢方薬を変更して2週間後に来ていただきました。
この時は、昨日までは便秘も下痢もなく、痛みもなく好調だったが、昨日から急激にお腹が痛くなり、下痢になって今日も続いているそうです。
ここらへんから、同もこの患者さんの過敏性腸症候群の原因は単純なストレスや自律神経の問題ではないという気がしてきました。
そこでそれ以外の原因を再度チェックしなおしました。
そうすると、どうも、腹部に癒着の反応がある気がしたので、癒着が原因で起きる腹痛に用いる漢方薬に切り替えいました。
しかし、思ったほどの効果は出ませんでした。
むしろ、下痢が酷くなった感じでした。
そのため、再度漢方薬を変更して様子をみていただくことにしました。
しかし、これもいまいちで、ちょっと病気の本質を見失った感じがしました。
そのため、あえて2週間ほど漢方治療をお休みし、その間に再度この患者さんの漢方的な原因を探してみることにしました。
2週間間隔を置いて再度チェックしなおすと、見落としがあるのに気が付きました。
どうも、この患者さん、どうも胆汁の分泌か何かに問題がありそうなのです。
恐らく、胆砂か胆泥のようなものがあって、そのため、脂質の消化不良がベースにあるように思えたのです。
実際この患者さんはストレスが無かったころは軟便傾向で、身長が160cm近くある割に体重が40kgちょっとしかなく、頑張って食べても太れないタイプなのです。
そこで、漢方治療の方向性を全く切り替えて、胆汁の分泌をスムースになる漢方薬を服用していただくことにしました。
そして、2週間後来られた際に様子をお伺いすると・・・
1週間に1回腹痛と下痢をしたそうです。腹痛があった時には今回はなぜか背中も少し痛くなったそうです。
しかし、それらの症状も含め全体として症状も軽めで悪くなかったそうです。
そのため、漢方薬はほんの少しだけ修正して再度同じ漢方薬を服用していただくことにしました。
そして2週間経過する少し前にこの患者さんから連絡があり、妊娠したけれども、漢方薬は服用し続けてよいか?
というご質問を受けました。
妊娠した場合、基本的には流産止め以外は服用していただかないことにしているので、一旦漢方薬はお休みして、一応、ご相談の予約日に来ていただくことにしました。
そして、来られた際に様子をお伺いすると、お腹の状態は随分安定したそうです。
やはり、この漢方薬で方向性は合っていたのだと思います。
そして、この患者さんが言うには妊娠したのは漢方薬のおかげではないか?というような話をされたのです。
というのも、この患者さんまだ結婚はしていないのですが、近々結婚を考えていて、もうすでに妊活を始めているそうなのですが、なかなか思ったように妊娠しないし、調べたら彼氏に男性不妊が見つかり、自分にも不妊の原因があるように思うので、過敏性腸症候群の症状が落ち着いたら妊活の治療をしてほしいといわれていたのです。
実際、以前、この妊活相談を受けた時に軽く不妊症の有無をチェックしたのですが、その時には不妊症があるように感じたのです。
しかし、この話をした時には、過敏性腸症候群の治療と不妊症には関係ないのではないか?と思いました。
というのも今まで過敏性腸症候群と不妊症に関係性があると感じたことが一度も無かったからです。
でも、よくよく考えなしてみると、石や胆砂などの胆汁の分泌障害が男性不妊に影響することがあると過去感じたことが何回もあるのです。
その理由は、胆汁が脂質の吸収に大きくかかわっているからです。
油脂の分解に直接行うのはリパーゼという脂肪分解酵素ですが、実際にはリパーゼだけでは脂肪の分解をすることはできないのです。
胆汁がなければリパーゼは脂肪とくっつくことができないので、脂肪の分解ができないのです。
脂肪の吸収ができない場合、栄養素として脂肪が体内で不足します。
身体の基本的なエネルギー源となるのは炭水化物(糖質)なので直接の影響はなさそうに思うかもしれませんが、女性ホルモンや男性ホルモンなどの性ホルモンはすべてもとはコレステロールが原料になします。
また、身体の基本ユニットである細胞の外側の細胞膜も脂質から作られています。
つまり、エネルギーとしてだけでなく、脂質というのは身体を維持するうえでなくてはならないものなのです。
それの吸収が妨げられるわけですから、生殖器系に影響を与える可能性があるわけです。
事実、私が不妊の反応の表れるツボの反応でチェックしてみたところ、胆管内の胆汁の流れを促進する漢方薬で男性不妊のツボの反応が良くなることを確認したことがあるのです。
ただし、これは全員に当てはまることではなく、そういう人もいるくらいの話なのです。
そして、今まで女性に関してはここの部分をチェックしたことがありませんでした。
そこで、この胆管内の胆汁の流れを促進する漢方薬がこの女性の患者さんの不妊の改善に関係するのかチェックしてみることにしました。
そうすると・・・
確かに改善するように感じました。
ただ、これはたぶん例外中の例外の気がします。
でもそういう人も中にはいるということがわかりました。
何十年経っても漢方治療は奥深く、まだまだ分からないことや新たな学びがあります。
本当、一生勉強です。