男性不妊に用いる漢方薬というのは、精力剤だと思われている患者さんがたまにおられるのですが、男性不妊に用いる漢方薬と漢方の精力剤は必ずしも一致はしません。一致するケースもたまにあります。どういうケースで漢方精力剤が不妊症にもちいられるのかについて少しかいていみたいと思います。
男性不妊症の漢方的原因
男性不妊症になっている患者さんの原因を漢方的に分類すると大きくは次のようになります。
瘀血(おけつ)
瘀血とは簡単にいえば血行障害です。血液の流れが悪くなっていてそれが原因で病気を起こすケースです。男性不妊の場合は精巣周辺の血流が悪くなることで精子を作るのに十分な血液が足りずに精子が十分できなかったり、精子に元気がなくなったりすることがあります。西洋医学的に代表的な疾患は精索静脈瘤です。これが原因となって乏精子症や精子無力症になることもあります。
気虚(ききょ)
エネルギー不足です。代表的な症状は食欲不振と疲労倦怠感です。これはもともとが虚弱な体質であるケースが多いですが、中にはハードな仕事によって過労が溜まって生じるケースもあります。これによって起こりやすいのは精子無力症ですが、乏精子症にもなる可能性もあります。
脾胃痰湿(ひいたんしつ)
食べ過ぎや飲みすぎなど日ごろの不摂生によって生じる状態です。メタボによる肥満などの状態が近いです。この状態はやがて瘀血を生じたります。
肝胆湿熱
性格や体質的な子もありますが、主に性感染などが原因となって男性不妊になるケースの状態です。陰部のかゆみなどや排尿痛や尿濁などを伴うことがあります。
腎虚(じんきょ)
いわゆる老化です。加齢に伴って自然と生じてくるものです。また先天的に親からもらったエネルギーが少なく、生まれながらにして腎虚の方もおられます。腎虚には腎陽虚と腎陰虚がありますが、腎虚の中でも腎陰虚は青年から中年に移行してゆく時期の体力が低下し始めるころに出てくる状態でほてりなどがその特徴です。そしてその状態を超えてくると身体の基礎代謝そのものが低下し、体全体が冷えてきます。このような状態が腎陽虚です。一般的に多いのは加齢に伴う腎陽虚です。この腎虚の方に無精子症の方が多いのです。そして腎虚は他の証(状態)に比べ、改善されるスピードが極端に遅いです。
男性精力剤と漢方理論(東洋医学)
男性精力剤とは漢方理論(東洋医学)ではどういう関係なのかというと、男性の精力は一般的には生殖能力に比例すると考えられます。生殖能力は年齢に比例すると考えられます。人は年を取ると体力が衰え、生殖能力が低下して、精力も低下すると考えられます。この状態は漢方理論(東洋医学)でいえば腎虚です。その中でも特に腎陽虚と考えられます。そのため男性精力剤は腎を補う補腎薬を持ちるのですが、その中でも補腎陽薬を用いるのです。補腎陽薬に関わらずですが、東洋医学では同物同治という考え方があります。ある部分が弱ったら、それを他の動植物の同じ部位を食べることで補うという考え方です。男性の精力は見た目には陰茎(おちんちん)の働きが衰えているように見えるわけです。そのため他の動物の陰茎を含むような漢方薬を用いることがあるのです。すごく代表的なものに至宝三鞭丸という名前の漢方薬があります。この三鞭とは3つの動物の鞭つまり陰茎をさしています。その3つの動物とは、鹿、犬、オットセイです。この3つの陰茎と睾丸が含まれている漢方薬なのです。この名前や入っているものを考えるとものすごく効きそうですが、実際の効果はそれほどでもないと思います。
男性精力剤と男性不妊に用いる漢方薬
結局、その患者さんの男性不妊の原因が腎陽虚であれば、男性精力剤に用いられる漢方薬が男性不妊用の治療薬になる可能性がありますが、それ以外の漢方理論(東洋医学)による原因が考えられるときには男性の精力剤は使われませんから、必ずしも一致しないということなのです。