高温期10日目頃になると妊娠への期待が高まるため、フライング検査を行ったり、体調の変化などで一喜一憂する方もおられます。
また、不妊治療の患者さんの基礎体温を毎回チェックしていくと、患者さんの中に高温期10日目辺りに基礎体温が下がる患者さんがいらっしゃいます。
この高温期の途中で基礎体温が一時的に下がることの意味に関して大きく2つの解釈ができます。この2つの一方は妊娠しやすい兆候ととらえる解釈であり、もう一方は妊娠しにくい不妊の傾向の兆候と解釈するものです。
その2つの意味を取り違えると大切な妊娠の機会を失ってしまう事にもなりかねないため、正しく理解しておくことが必要です。
そこで今回は、長年基礎体温をもとに不妊治療に関わってきた漢方薬剤師としての私の経験に基づいて、高温期10日目の症状や、基礎体温が下がるときの注意点について解説していきます。
関連記事
高温期8日目の症状や基礎体温が下がったときの注意点について解説
高温期9日目に体温が下がるのはなぜ?原因や体の状態について解説
高温期10日目の体の状態
着床時期は排卵から7日~10日ほどが目安とされています。高温期10日目というのは、受精卵が子宮内膜へ着床し始めた頃と考えられます。
しかし、実際は受精や着床のタイミングは人によって違うので、あくまでも目安の時期です。
高温期10日目でのフライング検査について
また、この時期に妊娠検査薬で検査を行い、陰性だったが実際には妊娠しているということもあります。妊娠検査薬はhCGという妊娠中にのみ測定可能量が著しく産生されるホルモンを指標していますが、高温期10日目は妊娠3週にあたるため、hCGの量も少なく妊娠検査薬が反応しない可能性があります。
薄い線が出る程度の陽性反応が現れる可能性もありますが、高温期10日目の時点では、着床が起きていたとしても正確な判定は難しいでしょう。
高温期10日目で感じられる症状
着床時期に「妊娠超初期症状」と言われているような症状を訴えられる方がおられます。
妊娠初期症状には、腰痛や胸の張り、受精卵が子宮内膜に潜り込む際に現れる着床痛や着床出血、頭痛、吐き気、腰痛、おりものの増加などがあります。
しかし、実際には妊娠初期症状を感じない人がほとんどです。
また、妊娠初期症状は生理前症状ともかなり似ているため、区別は難しいものです。
高温期10日目に何の症状も現れないと、「着床がうまくいかなかったのでは?」と不安を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、あまり不安に思う必要はありません。
高温期の10日目辺りに基礎体温が下がるとなぜ問題なのか
高温期8日目や9日目で基礎体温が下がった場合についても、原因や問題点は同じです。
なぜ、高温期8日~10日辺りで基礎体温が下がるのが問題なのかというと、この時期は一般的に着床しやすい時期と重なっているからです。
排卵期から黄体期にかけては、受精した卵子が着床しやすいように黄体ホルモンが活発に働き始めます。
黄体ホルモンは、子宮膜を成熟させ、受精卵が着床しやすくする役割があります。ここで、受精卵が着床すればさらに黄体ホルモンの分泌は続き、高温期も長く続くことになります。
つまり、この時期に基礎体温が下がるということは、黄体ホルモンの分泌がうまくいっていおらず、着床のしやすさに影響を与えている可能性があるということです。
高温期10日目辺りで基礎体温が下がる時を悪い兆候と解釈した場合
黄体機能不全
不妊治療を受けられている患者さんの基礎体温を長年見てきて最も多いのがこれです。
多くの場合、年齢に伴って起きてくる卵巣機能の低下です。
この状態はまだ軽度の黄体機能不全ですがそれを放っておくと高温期が低く短くなり妊娠しにくい状態に進んでいきます。
<軽度の黄体機能不全の基礎体温のグラフ>
特に重要なのがこの高温期に1回下がるというのがここ数カ月の間に起きていないか?ということです。
もし、こういう高温期10日目あたりの中盤で基礎体温が下がることが頻発してきているのであれば、確実に卵巣機能が弱ってきている証拠です。
もしくは最初は1日だけ下がっていたものが2日連続で下がるようになった場合も黄体機能が低下してきていると考えられます。
<もう少し重度の黄体機能不全の基礎体温のグラフ>
それが、もし1年のスパンでみたときに今回の1回限りであれば、原因はこれではないかもしれませしそこまで神経質になる必要はないかもしれません。
しかし、今後の基礎体温の変化を見極めなければいけません。
もし、何回かこのような状態を1年の間に繰り返しているようであれば、今後さらに機能が低下してくる可能性があるのです。
対策
軽度にしろ黄体機能不全の場合、もし、ご自身でタイミング療法などで様子をみられていた方は不妊治療へのステップアップが必要になります。
同じタイミング療法をするにしてもホルモン補充療法を併用する必要があると思います。
不妊治療を行っているクリニックなどに通われることをお勧めします。
もし、あくまで自然妊娠を目指す場合は漢方薬による治療をお勧めします。
さらに黄体機能不全に関して詳しく知りたい方は➡黄体機能不全
飲み始めたサプリメントや漢方薬が合っていない
今まで何も服用していなかった方が合わないサプリメントや漢方薬を飲み始めて1~2か月経過したころに出てくることがあります。(漢方薬の場合もう少し早く反応がでることもあります)
原因はこれらのサプリメントや漢方薬が合わないため、身体がストレスを感じて基礎体温を一過性で下げてしまうということです。
こういうものを継続して服用してゆくと、場合によっては基礎体温の高温期の形がどんどん崩れてゆくこともあるので注意が必要です。
このようなことは普通のビタミン系やミネラル系のサプリメントでは起こりません。
このようなことが起きるのはマカやザクロなど女性ホルモンに影響するようなサプリメントがその方の身体に合わない場合に出てきます。
対策
そういう場合には服用を中止して様子を見ることをお勧めします。
通常であれば、服用して間もなければ1周期後の基礎体温で元の状態に回復してきます。
もし、2周期経過しても元に戻らない場合は、不妊専門のクリニックや不妊治療に強い漢方薬局などで相談されることをお勧めします。
その他
実際には高温期で1回だけ下がる場合というのは、これら以外にも様々な要因で起こり得ます。
実際に私の薬局でよく見かけるのは、1日だけ早起きした(ex子供の遠足のためのお弁当作りとか)、たまたま1日だけ睡眠不足だったとか(睡眠不足は人によって基礎体温の反応はことなります。高温期が下がる人と上がる人の両方がいます)
秋や春の場合、布団の調整がうまくゆかず、朝、寒くて起きた時などは気温の影響を受けています。
そのため、こういう時は基礎体温は低く出ます。
ただしこれらの問題はそれほど多くはありませんし、基礎体温にメモ書きをしておいてもらえれば気にする必要のないことなのです。
高温期10日目辺りで基礎体温が下がる時を良い兆候と解釈した場合
インプランテーションディップ
インプランテーションディップとは海外で妊娠兆候の一つと言われているものです。
現象としては着床時(高温期の7日目~10日目)に基礎体温が一時的に下がる現象を言います。
インプランテーション=着床の意味で、ディップ=低下を表す言葉です。
これはアメリカの大手基礎体温サイトがおおよそ11万人のデータもとに分析された結果だそうです。
この中には妊娠した人も妊娠していない人も含まれています。
その中で高温期5日目~12日目の間に基礎体温が1日だけ(0.17℃以上)下がったものをインプランテーションディップが生じたと判断しました。
このインプランテーションディップが見られたのは全体の約3割で、この中の2/3の方が妊娠していたそうです。
つまり全体の2割の方です。
ここで書かれている問題点をいくつか指摘しておきます。
一つはインプランテーションディップという現象がみられたのにも関わらず3割以上の方は妊娠されていないということ。
これがインプランテーションディップだったとして何か意味があるのか?ということです。
事実このアメリカの大手基礎体温サイトも妊娠しているかどうかは妊娠検査薬をしてみないと最終的にはわかりませんと書いてあるのです。
私が長年不妊治療に携わってきて心配しているのは、インプランテーションディップと思っていたのに妊娠していなかった場合、時間を無駄にしてしまわないか?ということです。
もし病院に通っておられない状態でこの現象が見られたのに妊娠していない場合、これを妊娠兆候と解釈してしまうと、次こそ妊娠するんじゃないか?と期待しながら待つと思うのです。
その場合まだ若ければそれはそれでいいと思います。
しかし、35歳を越えて病院に通われておらず、この現象らしきものが見られてなおかつ妊娠していない。
そして、それが1年以内に数回あったのであればそれは黄体機能不全の前兆の可能性が高いと考えられます。
つまり軽度に黄体機能が低下してきているのです。
私は基礎体温をベースに不妊治療を行い、ここ10年で数百名は妊娠していますが、実は、その中で妊娠兆候としてこのインプランテーションディップというものを私自身が見た記憶がありません。
実際、ネットでインプランテーションディップで画像を検索したり、インスタグラムのハッシュタグでインプランテーションディップを検索して実際に私が基礎体温を分析するとその多くが黄体機能不全の可能性の高い基礎体温なのです。
一番言いたいのはインプランテーションディップという概念に振り回されて大切な時間を無駄にしないようにしていただきたいということです。
もっと詳しく知りたい方は➡インプランテーションディップの問題点とは?
まとめ
高温期10日目の症状や、で基礎体温が下がる時の解釈の仕方と問題点ついて書いてきました。
高温期10日目あたりで基礎体温が下がる時の意味をほとんどのサイトがインプランテーションディップ(妊娠兆候)として解釈していますが、日本の産婦人科医の中でも認められているものではないですし、アメリカの医学界でも公的に認知されているものではありません。
私も不妊治療で基礎体温は常にチェックしていますし、数百人は妊娠された患者さんの基礎体温を見てきましたが、全体の3割いるのであれば少なくとも100名程度この形を見たことになるはずですが、正直はっきりと見た記憶はありません。
妊娠している時の基礎体温のパターンというのはいくつかありますが、少なくともインプランテーションディップに関して、私の経験ではそんなにはっきりと認識できるレベルでは存在していないです。
このパターンでは黄体機能不全が圧倒的に多いのです。
つまり卵巣が弱ってきているということです。
そのため不妊治療を急ぐ必要があるのです。
実際、インスタグラムなどでインプランテーションディップのハッシュタグで画像をアップしいている方の基礎体温をチェックして一番多かったのが黄体機能不全の疑いの高い患者さんでした。
次に多かったのが、インプランテーションディップの条件に入っていないグラフをインプランテーションディップと勘違いしているケースでした。
インプランテーションディップだと思ってしまうと、妊娠していなかった場合でも、このままいけば妊娠できると勘違いして、時間を無駄にしてしまう可能性があります。
その点をとても心配しています。
本当にお気を付けください。
また基礎体温のグラフの測り方や見方などかなり詳しく知りたい方は➡基礎体温表のグラフの測り方や見方などを詳しく解説