以前私の薬局で不妊治療をして二人お子さんを授かった患者さんからの紹介で妊娠希望の患者さんが来られました。
この方、不妊治療で私の薬局にご相談に来られる方としてはかなり若い方なのですが2年間妊活をされているけれども妊娠されないとのことでした。
また、少し前まで、かなり大きな子宮筋腫があり、それが原因で生理の出血が多く、かなりひどい貧血になっていたそうなのです。
そのため、子宮筋腫の手術をされたそうなのですが、いまだに生理の量は多く、レバー状の血塊があり、生理痛もひどいそうなのです。
また、生理が始まる前から出血もあるそうです。
それ以外にも高プロラクチン血症、子宮後屈などもあるとのことでした。
さらに、それ以外にも東洋医学的なチェックを行ったのですが、今までの経験から何となくこの患者さんの薬選びは難しいという風に感じました。
その理由の一つは疾患と身体から読み取れる東洋医学的な所見が矛盾するのです。
具体的に書けば子宮筋腫というのは東洋医学的に考えると原因は100%瘀血(おけつ:血流障害)なのです。
そのため、漢方的な治療としては駆瘀血薬(活血薬)⇒血液をサラサラにする漢方薬を用いるのです。
ところが、この患者さんの舌の裏を見ると、瘀血瘀血(おけつ:血流障害)の徴候である舌下静脈の怒張(舌の裏に静脈の青筋がくっきり出てくる状態)が全く無いのです。つまり舌診だけ判断すれば瘀血(おけつ:血流障害)は無い状態ということであり、話が矛盾するのです。
また、生理周期に関して、この患者さんは子宮筋腫の手術後も、変わらず生理の量が多く、レバー状の血塊が生理の時に出てくることから漢方的には瘀血体質があると考えられるのですが、瘀血体質であれば、通常生理周期は長めになるのに、極端に短いのです。
このように体質を見極める時に重要視する大事な身体の徴候にいくつも矛盾する内容が含まれているため、この患者さんの体質を見極めきれず悩みました。
このような場合に、一番信頼できるものは基礎体温なのですが、今回、基礎体温表を持ってこられていませんでした。
そのため、今回はお薬は出さず、基礎体温表を持ってこられてから判断して漢方薬をお出しすることにしました。
そして、1週間後、基礎体温表を持ってこられました。
そして、その基礎体温を見て・・・更に悩みました。
その基礎体温表の結果はどう見ても血虚(血の不足)の基礎体温なのです。
基礎体温、生理周期、舌の裏⇒血虚
子宮筋腫、生理の量の多さ、生理の時のレバー状の血塊の多さ⇒瘀血
と完全に判断材料が真っ二つ分かれてしまったこと。
そして、
不妊治療に関して言えば、瘀血(おけつ:血流障害)と血虚(血の不足)は真逆の状態を表しているのです。
生理の量から瘀血(おけつ:血流障害)なのか血虚(血の不足)なのか?を判断する場合は次のように考えます。
生理の量が多い ⇒瘀血(おけつ)
生理の量が少ない⇒血虚(けっきょ)
つまり瘀血と血虚は生理の量で考えると真逆なのです。
それで何が問題になるかというと、基礎体温で見て血虚の状態であれば、通常、漢方ではその血虚状態を改善するため、補血(ほけつ:血を補う・増やす)漢方薬を用いることになるのです。
そうすると基礎体温が改善してきて妊娠しやすい状態になっていくと考えるのです。
しかし、もし、この患者さんに補血(ほけつ:血を補う・増やす)の漢方薬を使うと生理の量が増えていく可能性があるのです。
この患者さんは筋腫を手術した後でも生理の量が多いため、貧血にもなったわけですから、その状態をさらに加速させる可能性があります。
更にいえば、この生理の量がどんどん増えていく延長線上には、子宮筋腫を再発させるというリスクがあるのです。
そのため安易に補血(ほけつ:血を補う)するのは危険なのです。
しかし、今の基礎体温ではとても妊娠するのは難しいように感じました。
この矛盾する状況に対応するような漢方薬は理論上あるのですが、この患者さんをチェックしてみたところ、そのままでは合わない感じでした。
それ以外にも考えられる漢方薬をチェックしてみましたが、合うものを見つけることができませんでした。
そのため、ひとまず、ご自身でできる食養生法やご夫婦で取り組まれることを伝えして、2週間後までに、合う漢方薬を見つけておきますということで宿題にさせていただきました。
それから、何度も何度も考え合う漢方薬をチェックして、10日経過した頃にこれで行けそうと思えるような漢方薬の組み合わせを見つける事が出来ました。
そして、その当日来られた際に、合う薬を見つけることができましたとお伝えすると・・・
私たちも先生にお伝えすることがありますとのこと。
何だろう?と思ったら、実は先日妊娠検査薬で陽性反応が出たということでした。
え?!!マジですか!!と驚きましたが、ご夫婦曰く、タイミング的には私が養生法のアドバイスを実践した時期くらいに妊娠したのではないかといわれていました。
結果としては何もしていないですが、患者さんからの紹介ですし、何はともあれ妊娠されたことは本当に良かったです。
こういう事ってごくごくたまにあるんですよね・・・
、