不妊治療をすると閉経が早まるかどうかについて
不妊治療をすると閉経が早まるかどうかについてごくごくたまに患者さんから聞かれることがります。
これに関して、一時期はどちらの可能性もあるといわれていましたが、現在ではその可能性はないというのが定説になりつつあるようです。
ではどうして不妊治療すると閉経が早まるということが言われるようになったのでしょう?
そう考えるようになった考え方や現在はそうでないという理論が正しいといわれるようになった理屈的な部分を書いてみたいと思います。
ではどうして不妊治療を行うと閉経が早まると考えられるようになったのか?
それは恐らくですが、不妊治療に用いるホルモン剤についての誤解が深くかかわっているのだと思います。
実際に不妊治療といっても、実際にはそんな単純にひとくくりにはできません。
簡単に分類しても、タイミング療法、人工授精、体外受精とありますし、その中でもそれぞれ治療方法はさらに細分化されてきます。
その中でもたぶん不妊治療の方が心配されるのは、排卵誘発剤なのではないでしょうか?
排卵誘発剤は場合によっては排卵が一定ではない患者さんに対してタイミングをとりやすくする目的でタイミング療法の患者さんにも用いたりします。
もちろん人工授精や体外受精にも用いられることは多いです。
この排卵誘発剤の作用は卵巣を刺激して排卵を誘発させる作用があるわけですが、それに付随して複数排卵を促す作用があるのです。
排卵誘発剤の中でも最もよく使われる排卵誘発剤のクロミットなどはまさにこの作用があります。
このクロミットを長期間使い続けると複数排卵がずっと続くわけですから、結果として通常の排卵に比べ卵がどんどん排卵される分残卵数が早く減るということがおこる。
閉経は排卵が起こらなくなる現象だから、卵が早くなくなればその分だけ早く閉経が起こるというような理屈なのでと思います。
たぶん同様な考えで、HCGのようなゴナドトロピン系の注射剤でもたくさん卵を育てるため、残卵数が減ってゆくという風に思われていると思います。
これが一時期不妊治療をすると閉経が早くなるのでは?と言われていた根拠なのだと思います。
一方現在はどうかというと・・・卵胞のもととなる原始卵胞というものは女性の場合、赤ちゃんとして生まれた段階から200万個くらい持っているといわれています。
そして12歳前後で排卵が始まります。
そこから毎月排卵が起きたとしても、50歳くらいまでの約40年で排卵される卵は単純計算すると12個/年×40年=500個程度のはずです。
ところが実際には思春期でやっと排卵が始まったころにはすでに30万個程度まで減っているのです。
つまりこの段階で170万個も減っているのです。
そして思春期以降になると何もしなくても1か月でだいたい1000個前後減っていくといわれています。
つまり1年で1万個程度です。
この1万個前後減ってゆくから思春期12~15歳で30万個あったとしても40代後半くらいで残卵がなくなってしまうということでつじつまが合うのです。
つまり一つには何もしなくても1日あたり30個前後は卵が自然に失われているのです。
そしてHCGなどの卵巣に刺激を与えて卵を育てるようなホルモン剤の働きは本来なら自然に消えてゆく卵を育てているのでそれで残卵が減ることはないというのが現在多くの病院での見解です。
そのため不妊治療しても閉経は早く来ないということが定説になりつつあるのです。
基本的に上記されていることが正しいのだと思いますが、早発閉経のような本当に残卵数が少ない患者さんを実際にみてきた中では、そうとも言い切れないのではないか?と思います。
早発閉経の患者さんに複数排卵を促すような治療をするとそれ以降全く排卵しなくなるケースは確かにあるのです。
そのため実際のところはもともとふつうに卵の数がある人に関しては不妊治療で閉経を早めるということははほぼないが、早発閉経のような特殊な患者さんには影響しないとは言い切れないというのが実情なのではないかと思います。