ご紹介で患者さんが来られました。

症状は味覚障害です。

もう少し詳しく書くと、新型コロナウイルスに感染して、4~5日経過してから味覚障害になったそうです。

それから、サプリメントやホメオパシーなどを試されたようですが、4か月経過しても全く改善しないためご相談に来られたのです。

そこで現在の味覚の状態を分かる範囲で教えていただきました。

甘味→分かる
辛み→分かる
苦味→?
酸味→分かる
塩味→?
旨味→?

新型コロナウイルス後遺症と一口にいっても、実際に来られる患者さんの症状は多岐にわたります。

新型コロナウイルス後遺症が風邪の延長線上のような咳や痰などの症状の場合は、呼吸器に用いるような漢方薬で対応できることが多いですが、味覚障害、全身倦怠、頭の思考がまとまらない、物忘れがひどくなった、身体のあちこちが痛い等、さまざまな症状に対して風邪の予後に用いるような漢方薬ではとても対応できないのです。

漢方治療イメージ

西洋医学的にそれぞれの症状に対して生理学的・病理学的に何が起きているのか?仮説をたてることと、東洋医学的に起きている症状について漢方理論で解釈して、それら双方で矛盾のない漢方薬の組み合わせを考えるようなことが必要になります。

今まで過去に来られた新型コロナウイルス後遺症の患者さんから私が感じているのは、症状を出している組織、器官が一部破壊されている(少なくとも機能的には)としか考えられないような所見がみられるのです。

そのため、治療の原則は組織、器官の再生を促すということです。

そのやり方には漢方的にもいろいろあって、残念ながらその方法は人によって異なる気がしています。

そのため、患者さんが来られるたびに薬の組み合わせなどは変更することが多いのです。

この患者さんにも同様の理論で漢方治療を行いました。

とりあえず、1週間程度お薬をお出ししてが、様子を見ることにしました。

あとは味覚の不明な部分を以下のようなことをして明確にしてもらようお願いしました。

甘味→砂糖をなめる
辛み→唐辛子、ワサビをなめる
苦味→コーヒーをなめる
酸味→酢をなめる
塩味→塩をなめる
旨味→ほんだしと顆粒だしをなめる

そして、次に来られた時にお話をお伺いすると以下のような結果でした

甘味→※分からない×
辛み→分かる〇
苦味→分からない×
酸味→※分からない×
塩味→分かる〇
旨味→分からない×

味覚イメージ

こうやって厳密にチェックしてみると実際の結果はご本人の意識とは異なったものとなりました。

特に※の甘味と酸味は最初ご自身では分かっているつもりだったのですが、実際には感じていなかったということです。

それから、旨味はわからないということでしたが、ちょうど同時期に同じ新型コロナ後遺症で味覚障害になった同年代の学生の方が来られていたのですが、この方も旨味が分からなかったことから、旨味は味覚の中でも少し高度(複雑)な感覚なのかもしれないと思いました。

そこで、薬局でチョコレートを買ってきて、来られる度に同じチョコレート(甘味と苦味)を一カケ食べていただいて、変化をチェックしてもらうことにしました。

そして漢方薬服用から約1か月で

酸味が少しわかるようになってきました。甘味、苦味、旨味はまだ感じません。

漢方薬の組み合わせなどは毎回変えました。

ここから、学校や部活などで1か月くらい間隔が空いた後、再び治療を開始しました。

甘味イメージ

そこから1か月後

甘味→分からない×
辛み→分かる〇
苦味→分からない×
酸味→分かる〇
塩味→分かる〇
旨味→部分的にわかる△→刺身によっては分かる

酸味の感度がアップし、旨味の中で感じるものが出てきた感じでした。

さらに1か月後

甘味→分からない×
辛み→分かる〇
苦味→少しわかる△
酸味→分かる〇
塩味→分かる〇
旨味→部分的にわかる△→刺身によっては分かる

苦味が少しわかるようになりました。

さらに1か月経過後に

甘味→少しわかる△
辛み→分かる〇
苦味→少しわかる△
酸味→分かる〇
塩味→分かる〇
旨味→部分的にわかる△→刺身によっては分かる

甘味が少し分かるようになってきました。

ここらへんあたりからチョコレートの味が分かるようになってきました。

これで一気に良くなるかと思ったら・・・

次に来られた時には味覚全般が落ちていると言われるのです。

この話を良く良くきくと・・・どうも部活がハードなため、夏バテ(疲労倦怠と食欲不振)を起こしていて、食べ物全般が美味しくないという状況の可能性が高いという結論に至りました。

なぜそう思ったかというと、毎回同じチョコレートを食べてもらっているのですが、甘味も苦味もご本人は感じないと言われたのですが、実際目の前でいつもと同じチョコレートを食べてもらうと、苦味も甘味もいつもと同じに感じるとご本人が言われたからです。

このことから食欲が落ちると何も食べたくない→何も美味しくない→味全体の感覚が鈍く感じる→という結論にご本人がなったのだと思います。

でもお盆で学校の部活が休みだった時には味覚は復調していたことからも、疲労が味覚の感覚に影響を与えるのは事実みたいでした。

そこで、この時には身体を元気にして食欲を上げる漢方薬を出しました。

それによって自覚症状は一気に改善しました。

甘味→分かる〇
辛み→分かる〇
苦味→分かる〇
酸味→分かる〇
塩味→分かる〇
旨味→ほぼ分かる△~〇

ほぼすべてが分かるようになっていました。

例外的に分からないのは牛乳の味だそうです。この牛乳の味、別のコロナ後遺症の学生の方も同様の事を言われていたので、ここの感覚も高度なのかもしれません。

それから、さらに1か月程度治療を続け、疲労が溜まっていなければ、すべての味が分かるようになったので治療を終了としました。

この患者さんの場合部活で忙しく、漢方相談になかなか来れず、月の半分くらいしか漢方薬を飲めていないので8か月くらい時間がかかってしまいましたが、きちっと来られることができたら5か月くらいでは良くなったのではないか?と思います。

でもとりあえず、全ての味を感じるようになったので良かったです。

 

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