この方は約2年前に、以前私の薬局に通われていた患者さんの紹介で来られました。

その時に既に30代の後半でAMHが0.04、FSHは約50でした。

また高プロラクチン血症もあり、病院で高プロラクチン血症のためのカバサールというお薬も飲まれていました。

漢方治療に関しては、私の薬局に来られる前に他の漢方薬局で漢方薬を飲まれていたのですが、なかなか結果が出ないということで来られたのです。

そこで、漢方的な問診や舌診、基礎体温などから、現在の体の状態をチェックすることにしました。

問診結果から読み取れる全体的な状態としては、大きな問題はありませんでしたが、 基礎体温や病院での血液検査(ホルモン検査)などの結果から漢方的に考えると、血虚もしくは腎虚の可能性があると思いました。

また基礎体温の低下から低体温があったので、血虚や腎虚の薬とは別に体を温める漢方薬は必要になる可能性があると思いました。

そこで不妊の反応の出るツボを使ってこの患者さんに合う漢方薬を探してみることにしました。

そうすると腎虚(加齢に伴う問題)の薬ではなく、血虚(女性ホルモン不足)の薬が合っているように感じました。

それと同時に、この患者さんが今まで別の漢方薬局で出されていた漢方薬を持って来られていたので、その薬が合っているかどうかも併せてチェックしてみました。

漢方治療イメージ

そうすると、別の漢方薬局で出されていた漢方薬はこの患者さんには合っていませんでした。

恐らく、早発閉経=腎虚という考え方だけで、腎虚に使う漢方薬を出されたのだと思います。

なぜなら、その腎虚のための漢方薬(かなり大量)服用後も全く基礎体温は改善していなかったからです。

確かに閉経状態というのは一般的には腎虚(老化)というふうに考えられます。

そのため、一般的には補腎剤という腎虚を補う漢方薬が用いられるのです。

しかし、実際に早発閉経の患者さんを丁寧に見ていくと、単純に早発閉経=腎虚という方は非常に少ないのです。

実際の原因は腎虚(加齢に伴う問題)、血虚(女性ホルモン不足)や瘀血(血流障害)や気滞(ストレス)など人によって様々です。

そして、その原因が複合していたりすることも多く、 用いる漢方薬やその組み合わせなども全く異なります。

また、同じ患者さんでも、時間の経過と共に身体の状態(不妊の原因)は変化してゆきます。

その変化に伴って当然、不妊の原因も変化してゆくのです。(例えば、ストレス(気滞)が原因で早発閉経となっても、年齢を重ねると腎虚(加齢に伴う問題)が増えてくる)

その変化してゆく状態に対応していく必要もあるのです。

不妊治療イメージ

一般の不妊症の患者さんは、基本的には、卵巣機能がそれほど衰えていないため、多少薬が合っていなくても妊娠するケースはあります。

けれども、 早発閉経の患者さんの場合は、針の穴に通すような緻密な漢方治療を行わないと妊娠まではなかなか至らないのです。

そこで、今まで飲まれていた腎虚の漢方薬をやめていただいて、血虚を改善するな漢方薬だけを飲んでいたことにしました。

しかし、次来られたときに、身体の状態をチェックすると、この漢方薬が合わなくなり、漢方薬を変更しました。

今度の漢方薬は血虚の薬にさらに冷えを改善するような漢方薬を同時に服用していただく形にしました。

そして、この漢方薬で2週間おきに来ていただいて およそ一か月後には、基礎体温が明らかに改善してきました。

さらに、この漢方薬は数ヶ月ほど継続することで少しずつ体質改善してきていたのですが、また途中でこの漢方薬が合わなくなってきたため、薬を変更することにしました。

漢方治療イメージ

次に用いた漢方薬は瘀血の薬でした。

この漢方薬を飲むようになって、なかなか卵胞が育たなかったのが育つようになり、体外受精で初めて採卵することができました。

そして、また半年くらいは同じ薬が合っていたのですが、途中から合わなくなり、漢方薬を変更することになりました。

また薬が合わなくなると、卵ほうが育たなくなりました。

そして、また今現在の状態に合う漢方薬を見つけて、服用していただいてしばらく継続すると卵胞が再び育つようになり、採卵できました。

この様に漢方薬を患者さんのその時々に合わせて変えてゆくことで、身体の体質は少しずつ改善してきました。

しかし、何度か卵を返しても妊娠には、至りませんでした。

このように不妊治療を続けていく中で、患者さんの年齢と共に卵巣機能が再び低下してくる感じがありました。

漢方服用によって体調が改善している部分と年齢に伴って出てくる高齢不妊の問題のせめぎ合いのような状態が出てきました。

ちょうどこのころにこの患者さんに合う薬がなかなか見つからずにとても苦労しました。

実際のところ、3~4ヶ月の間は合う薬が見つからず、来ていただいてもお薬を出せない状況が続きました。

体外受精の病院イメージ

また、現在通っている不妊治療の病院の治療についても、レベル的な問題を私は感じていました。

そのため、現在残っている凍結卵一個戻して、もしだめだったら、病院を変えてたらどうだろう?話になっていました。

そして、薬が見つからない状況から約4ヶ月後にやっと合う漢方薬を見つけることができました。

また合う薬を飲み始めてしばらくすると、基礎体温が改善してきました。

体外受精というのはホルモン剤治療なので、漢方薬の入る余地がないように思うかもしれませんけれども、合っている漢方薬(合わない漢方薬を飲んでも妊娠率は変わりません)を飲みながら体外受精をすると不思議と普通よりも妊娠しやすくなるのです。

そのため、このタイミングで体外受精を行ってもらうことを強く奨めました。

そして実際にはここでもいろんな事があったのですが、このタイミングで体外受精を行い、この患者さんは生まれて初めて妊娠されたのです。

この患者さんに関しては、ほぼ毎週のように体の状態をチェックしていたので本当に嬉しかったです。

ただ、まだ妊娠したばかりなので安心はできませんが、それでも早発閉経から妊娠されたのは本当に良かったです。