この話は特別な話ではありません。
私の薬局で日常よくあることです。
この方は遠方に住んでおられるお母さまの代理で漢方相談に来られている方です。
お母さまは、腰痛、坐骨神経痛と冷え症に悩んでられる方です。
実際、お母さまがこの患者さんに会うために他県から来られた時、実際に身体の状態をチェックさせてもらったところ、ものすごく腰が歪んでいるのです。
これはプロが見なくても、誰が見ても一目瞭然なくらいひどい状態でした。
間違いなくこの歪みが腰痛や坐骨神経痛に影響を与えていると思ったのですが、あまりに歪みがひどすぎてなかなか合う漢方薬を見つけることができませんでした。
それでも、ベストではないにしてもベターな漢方薬を何回か服用していただくうちに、完全ではないですが、若干ずつ冷えや腰痛が改善してきました。
そんな、あるとき、この代理で来られている患者んの娘さんが、漢方薬を作っている最中に質問してこられました。
『最近、唇の端がよく切れて痛いのですが、これは原因は何だと思いますか?何かしたらよいことありますか?』
だいたい、こんな内容だったと思います。
パッと見た感じは普通に口角炎なので、普通に考えるとビタミン不足かな?という感じなのですが、実際ツボを使ってチェックしてみても違っていました。
これは、今まで場数を踏んできた自分の感覚から言うと、何かの成分(ビタミンやミネラルなど)が不足しているというより、何か過剰に摂取することで出てきているような気がしました。
そこで、この症状が出始める以前から、始めたサプリメントなどが無いか?をお伺いしました。
そうすると、そういったものは一切ないということでした。
うーん・・・
そうすると、食べ物でも薬性の強いものが影響している場合があります。青汁とか、黒豆茶とか、特別な働きを持ったヨーグルトとかです。
そこで再度、そういったものを最近摂り始めていないかお伺いしたところ、そういったものは一切摂っていないそうです。
うーん・・・わかんないな~
諦めようとしたら、この方が急に思い出したのです。
そういえば1か月前くらいから、エゴマ油を飲んでいるそうです。
テレビで身体にすごく良いというのを見て始めたそうです。
それだ!と思いました。
一般的にはエゴマ油はオメガ3という不飽和脂肪酸の中のαリノレン酸を豊富に含む油として有名です。
このαリノレン酸は、体内で代謝され、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)にもなります。
このうちのドコサヘキサエン酸(DHA)は魚の脂にも含まれており脳を活性化するといわれています。
昔、NHKのみんなのうたでも『さかな、さかな、さかな~、さかなを食べると~、あたま、あたま、あたま~、頭がよくなる~』の歌詞のもとになったものです。
エイコサペンタエン酸(EPA)は血液をサラサラにするといわれています。
そして、αリノレン酸はさらに代謝が進むと、抗アレルギー作用のある物質に変化したりもします。
そのため、アトピー性皮膚炎の患者さんには抗アレルギー効果を期待して一般的にはαリノレン酸を豊富に含むエゴマオイルや紫蘇オイルを摂取するのが良いといわれているのです。
私も自分で漢方薬局を開業した頃15年以上前は、アトピー専門クリニックの先生が書かれているこういった内容を信じて、一時食事指導にこれらのものを推奨していた時期があります。
しかし、実際漢方薬はそのままで、今まで使っていた油から、エゴマオイルや紫蘇オイルに変更すると、むしろ皮膚の状態が悪くなる方の方が圧倒的に多かったのです。
それは、購入した油の質の問題ではないか?と思われる方もおられるかもしれませんが、今まで日常使っていたサラダ油でなんの問題も出なかったのに、エゴマオイルや紫蘇オイルに変えたとたん、皮膚が徐々に悪化してくるのをみると、油をわざわざ変える必要はないという結論になりました。
実際、漢方薬は一緒で、油をもとに戻した方が皮膚の状態が落ち着く方がほとんどだったのです。
私が言いたいことは一般論が必ずしも個々の人には当てはまらないということです。
一般的に正しいかどうかではなく、自分にとってどうかが大事なのです。
こういった経験が私の中にあったので、この話を聞いてピンときたのです。
そこで、漢方薬などは一切出さず、次のお母さまの相談までエゴマオイルを一切止めるようにお願いしました。
そして2週間後来られた際に様子をお伺いすると・・・
エゴマオイルを止めて翌日から症状が減り始め、数日で口角炎は治ったそうです。
それでも、この方はきつねにつままれたような感じでした。
私はこういうことを日常茶飯事経験しているのでとても当たり前のことなのですが、一般的に良いというものが実は自分にとって良くないことがあるということは、なかなか理解できないのだと思います。
繰り返しになりますが、一般論と個体論は違うのです。
そして、食べ物に関しては『頭で食べる』(理屈で考えてこれが身体によいから食べる)というのは間違っていることが多いです。
お菓子やジャンクフードが大好きで主食にしているような方は別として、基本口に入れるものは、考えるよりも感じる部分(これが身体によいからこれを食べるではなく、今日は何となくこれが食べたい)を大切にした方が間違いが少ないように思います。
特に普段から食事に特に気を使われている方は知識はある程度までにしてそれ以降は感性を磨いた方が良い気がします。